【経験談】塾講師正社員を3年でやめた理由。理想と現実のギャップ

僕は大学を卒業してすぐ、札幌の塾業界に就職しました。

そして3回目の卒業生を送り出すと同時に辞めました。

夢見て入った塾業界・・・しかし現実は甘くありませんでした。

今回は塾業界の【理想と現実】のお話です。




目次

塾業界を目指したキッカケ

僕が就職先に塾業界を選んだ理由は3つです。

塾業界に憧れた理由
  • 子供に勉強やスポーツを教えるのが好きだった
  • バイトの経験から、教える楽しさを知っていた
  • 小中学時代に通っていた塾の先生が、結構いい車に乗っていた(稼いでそうだった)

塾業界の正社員の求人を見た瞬間、「あ、働きたい」と素直に思いました。

 

その後無事採用が決まり、4月から仕事がスタートしました。

就職してから教室長になるまでの半年間をザーッと

入社して1か月の本部研修

入社しても、すぐ授業をするわけではありません。

1か月ほどは子供と顔を合わせることはありません

  • 会社の仕組みや指導の方針を学ぶ
  • 使っている教材の全てに目を通す

下地作りから始まります。

 

それと並行して本部の雑務も手伝いました。

札幌全域の中学校から定期テストを回収してデータ化する作業は、量がエグいですが楽しかったです。

子供たちの笑顔とはかけ離れた業務でしたが、テスト問題を見ながら懐かしむ余裕はありました。

しかし4人いた同期のうち1人がここで脱落しました。無言で退職。

学習指導の研修がスタート

1か月の本部研修を終え、いよいよ指導の研修が始まりました。

高校受験までの学習内容には不安はありませんでしたが、指導以外の部分への不安は大きかったですね。

毎日違う教室で授業をし、その傍らで運営方法も学ぶため結構いっぱいいっぱいでした。

教室研修は半年ほど続きました。

 

自分が子供の頃は気づきませんでしたが、塾の先生は学生バイトの割合は高いです。

社員講師とアルバイト講師の比率は1:10ぐらいだと思います。会社にもよりますが。

 

学生講師さんたちは、子供たちと年齢が近い分接する距離感がいいです。

子供たちを聞く姿勢にしやすいメリットがありますね。

話題にも富んでいますし、学生たちの「生徒の心をつかむ力」には学ぶべき要素が詰まっていたと思います。

最初の半年で学んだ塾運営の基礎中の基礎

「新しい先生がきたぞー!」

子供達の期待の眼差しほど緊張するものはありません。

子供たちとの関わりは、ファーストコンタクトが非常に大事です。

挨拶や笑顔、質問攻めへの対応には特に気を使いました。

 

先生方との接し方にも気を使いましたね。

教室を転々と回っていたので、2~3週間に1度しか行かない教室もありました。

生徒の様子を把握するためにも、他の先生たちと積極的にコミュニケーションをとるようにしていました。

共有しておくべき情報は

  • 部活
  • 得意科目
  • 家庭環境

家庭環境は主に親の関心度です。

成績が上がってもあまり関心を示さない(褒めない)親が結構いるんです。そういう生徒は特に気にかけてあげていました。

天職に巡り合えたのでは・・・?!

先輩社員から見た僕の評価は

  • やる気があり
  • 積極的にコミュニケーションが取れる
  • 指導力も悪くない
  • 期待の新人

だったそうです。(3年後辞めるときに聞きました)

 

教室での仕事は楽しく、先輩や上司からの評判もよく、塾業界が僕にとって天職だとその時は確信していました。

入社半年後、ピーク到来

そして入社から半年、異動が言い渡されました。

 

「新規教室の担当(教室長)に任命する」

 

入社半年での教室担当への配属は異例のスピード出世でした。過去に例はほとんどなかったそうです。

その時まさにピークを迎えます。

「一日も早く一人前の教室長になって、会社で一番の教室を目指す!」

そんなやる気に満ち溢れた僕がいました。

 

しかしこの2年半後、僕は塾業界辞めます。

就職して1年目で有頂天モードになった

新規教室が完成し、ゼロからのスタートを任された僕。

任されたといっても、将来的に任せるという意味でした(当たり前)

最初の半年ほどは上司が事実上の担当者となり、僕はサポート役という感じでした。

学習塾の教室担当の主な仕事

教室担当者の仕事
  • 学習計画の作成
  • 入塾する親御さんへの説明(お金や学習計画など)
  • 通塾している方への定期面談
  • 教室の営業状態(儲け)の管理

 

「塾の」というところを切り取って挙げてみるとこんな感じになります。

「掃除」のようなどこでもやる仕事は、当然やるべき仕事として存在します。。

担当者ともなれば、規模の小さい教室であればそれも全部自分でやることになります。

塾業界で働く人の生活リズム

話がそれますが、塾で働いていた頃の僕の生活スタイルをサラっと紹介します。

仕事の日のタイムスケジュール
  • 午前10時 起床
  • 昼12時 出社(本部ミーティングからだったり支店に直接だったり)
  • 午後3時~ 小学生の授業
  • 午後5時~ 中学生の授業
  • 午後9時半 授業終了
  • 午後11時 退社
  • 午前3時 就寝

寝る時間は前後しますが、大体こんな感じでした。

退社してからそのまま麻雀荘に寄るなど、息抜きするのは深夜帯の時間です。

この時間になると遊べるところは、ネットカフェのような24時間営業的なお店しか空いてません。

買いたいものは大体ドン・キホーテで調達してました(笑)

新規教室スタートから半年間の仕事

新規教室だったので、最初は生徒は1人もいません。

大々的なオープンキャンペーン(月謝2か月分無料とか)やっていたので、問い合わせ的な電話はたくさん来ていました。

それでもスタートからコケるわけにはいきません。

 

ということでスタートしてからの2~3か月は近隣の小中学校の校門前へ、登校する生徒を狙ってビラ配りに行くのが専らの仕事でした。

生徒がいない分、帰りも早かったので12時には寝て、翌朝6時に起床してスーツに着替えて学校へ の繰り返しでした。

 

9月にオープンして、冬休みには通う生徒も増え、受験を控える中学3年生も少ないながらも通っていました。

そのころには僕は「授業に専念」といった感じで合格発表の日まで授業授業の毎日でした。

 

そして3月中旬。

中学3年生が卒業し、いよいよ正式に教室担当者となりました。

それまで少しずつ引き継いでいた学習計画の作成や、シミュレーションや練習を重ねた入塾手続き面談なども、僕が主体となってやっていくようになります。

さらに教室の運営状況などの報告や改善なども、全て自分の肩に乗っかるようになりました。

就職して2年目に転職を考え始めた

僕が配属になった教室の他に、もう1つ別の地域に新規教室がありました。

開設時期はほぼ同じで、担当者は僕より後に中途採用で入社した人でした。

直接話したことはないですが、噂ではあまり仕事に真面目ではなく、上司に怒られてばかり・・・そんな感じの人でした。

 

そんな人物像とは裏腹に、教室の運営状況が僕の教室よりも遥かに好調そのものでした。

3年生が卒業した後、残った生徒の数が倍違う状況でした。

 

同じ運営期間で生徒数に差が出る理由

色々な要因がありましたが、一番大きかったのはライバル塾の数でした。

どの業界も同じですが、近所に競合店が多ければ多いほど売上を出すのが大変です。

僕の教室の地区は大きな小中学校が多かった為、比例して学習塾やスクールが多数存在していました。

逆にもう1つの教室は、小中学校が少なく塾と呼べるものが近所に存在していないエリアでした。

 

そんなこんなで、同じタイミングでスタートした教室なのに半年たって、明暗がクッキリ出たという様相を呈してしまいました。

 

会社内部では新しい2教室の状態が1目でわかりますし、運営状況の良し悪しは生徒数で見るしかありません。

教室の置かれている状況などは関係なく、どんな状況であれ結果を出していくのが会社に勤める人間の責任でした。

教室の運営が「指導」から「営業」へシフトしていく自分

塾の生徒が増える仕組みにはいくつかルートがあります。

  • 友人の紹介
  • 兄弟
  • 親の評判
  • 他エリアの系列店の評判

1番強いのは友人紹介です。

どうせ勉強しに塾へ行くなら「みんなが通っているところ」を選ぶのは、少しでも楽しく通えるようにという意味では当然の選択肢だと思います。

事実僕の働いていた塾でも、友人の紹介に力を入れていて、「紹介してくれたら図書券をプレゼント」していました。

 

生徒を増やさなければ・・・ どうしたら生徒が増えるんだ・・・ 毎朝チラシをまくために早起きするか・・・

「誰かお友達で塾に行きたいって言ってる友達いない?」

「弟さん〇年生になったよね?塾どう?」

「部活の友達は他にどこの塾いってるの?こっちに誘っちゃえよ」

「成績上がってきてるから友達にめっちゃアピールしてね」

 

もう、自分の考えとか信念とか、そういったものは消え失せていたと思います。

 

そして、生徒から言われた一言で、この仕事は続けられないなと思いました。

「先生いっつも紹介の話ばっかり」

3回目の卒業を見送り転職した

生徒に言われた「紹介ばっかり」のひと言にはハッとさせられました。

成績の話とか進路の話とか、そういうのもモチロンしていました。

でも僕の表情というか必死さというか、「一番言いたいのは生徒を増やすのに協力して」って色が滅茶苦茶出ていたんだと思います。

それが原因で生徒が塾を辞めてしまうとか、そういったことはありませんでした。

むしろその努力の甲斐あって、生徒数は増えましたし、定着率(辞めないで続けてくれる生徒の割合)は会社でもトップクラスでした。

入塾数1位を獲得する快挙

地域での評判も少しずつ高まっていました。

3年目の冬休み(辞める直前です)、会社でトップの入塾数を記録しました。

 

会社では「ついに来たか!君には期待していたんだよハッハッハッ」なんて言われましたが、嬉しくも何ともありませんでした。

「また営業成績下がったらケチョンケチョンに言うんだろ」

「一時的なフィーバーなんて何の意味もない」

と心の中で繰り返しては作り笑いで過ごすしかありませんでした。

 

またその頃から「子供の学習を売り物にする」ことへの疑問がわいてしまい、塾講師としての根本に悩んでしまいました。

子供たちの成績を上げるために勉強を指導して、親御さんからその対価を払ってもらう

ただそれだけのことなのに、そんな単純なところにすら、疑問と悲観を持つようになっていたんだと思います。

3年生を見送って退職

3月の中学3年生の受験と合格発表を見送り、新しい教室担当に引き継ぎ、退職しました。

引き継ぎは、すべての生徒一人ひとりの親御さんと面談を実施して、「新しい先生です、よろしく」的な挨拶を繰り返しました。

「残念だ」とか「また教えて」とか言ってくれたり、いつも生意気だった女の子が号泣してくれたりと、後ろ髪ひかれる場面も多々ありました。

 

辞めてから半年後、当時のアルバイト講師に会って話を聞く機会がありましたが、僕が辞めて1か月もたたずに通常運行だったそうです。

切り替え早すぎ

 

今でもその教室は残っていて、そろそろ10年になると思います。

逆に最初にお世話になった先輩の教室が、成績不振により閉鎖になったのを聞いた時の衝撃は未だに忘れません。

塾業界に向いている人、向いてない人

塾業界を仕事とする上で必要となるのは、次の5つです。

  • 子供が好き
  • 教えるのが好き
  • 責任感が強い
  • 完璧主義
  • 営業が好き

塾という業界を目指す人であれば、子供が好きであったり、教えることが好きという部分は元々持っていることだと思います。

また責任感が強いことであったり完璧主義であることも、社会人として必須といえる項目です。

 

そして営業が好きであること。

僕が心折れてしまった部分です。

塾業界の企業は少しでも広いエリアを網羅し、多くの生徒数を抱え、合格実績や指導力の評判を広げていくことを目標としています。

大手予備校のような講師力で勝負しているところは少し違いますが、それでも1つでも多く校舎を作ることで実績を積み上げていくことを目指しています。

 

小さい教室をいくつも展開していく業態の場合、1つでも多くの支店をつくり規模を大きくしていく営業力が必須と言えます。

授業に専念する専属講師の立場だと、生徒を増やす営業の一端を担うことはあれど、会社からのプレッシャーや責任といったところはそれほど高くはなりません。

 

支店教室の運営を任された担当者になると、それが一気に肩にのしかかるようになります。

僕も本格的に担当として仕事をするようになってからは、ストレスや不安がたえない日々でした。

 

授業をしてても、友達を紹介してくれる生徒にはどうしても手厚い指導をしてしまったり、おとなしい生徒に対して軽いタッチで接してしまったり・・・

思い出すだけで最低な講師だったなと反省しかありません。

 

生徒から「塾のおかげで成績上がったよ!」と言われても、

「よーしじゃあその成果を友達に広めて誘ってきてくれ!」と返すのがテンプレート。

 

他の支店教室の担当者たちもこれを当然のようにこなしていました。

中にはこんなガツガツしなくても、勝手に集まってくるところもありました。

それでも支店教室の半数以上は同じような感じでしたね。

 

そんな状況に疲れてしまい長続きしない担当者が多く、入れ替わりは激しかったです。

年に1~2人は担当者が去って行っていました。

 

中途採用も多い業界ですが、営業職経験者が強いというのは塾業界も変わらない現実だと思います。

塾業界で働いてみたい人はアルバイト講師という選択肢も

ここまで散々言ってきてしまいましたが、僕自身としては塾業界を経験できてよかったと思っています。

子供たちと触れ合えることや、勉強面の世話をして一緒に達成感を味わえること、そして子育てで悩む親の話を聞けることなど、人生において必要になるであろう経験がたくさん詰まった仕事です。

他の業界で味わうことができない、いろいろな経験ができました。

 

僕のようにゴリゴリの営業に心折れてしまうかも・・・と不安がある場合は講師専属で塾業界で仕事をする手もあります。

実際に僕の担当していた教室でも、40代でアルバイト雇用の講師がいました。

昼は家の稼業を手伝い、夜は塾での仕事という生活スタイルでした。

 

収入面では正社員には及ばないものの、毎日出勤していればそれなりの稼ぎにはなりますし、ダブルワークも可能です。

学生であれば授業や部活、テストなどの兼ね合いで出勤日数が限られるところです。

出勤日が偏ると、担当する生徒も偏りが生じてしまうこともあります。

 

ですが、毎日出勤できる半専属講師のような務め方だと、ほぼすべての生徒に顔を覚えてもらえますし、教室を担当している正社員からの信頼も厚い物になります。

教室担当者からすれば、ものすごい助かる存在だったりします。

指導力を磨く向上心があり、子供のハートをつかむ力があり、上司(教室担当)からも必要とされる存在になりたい。

そんな形で働くのも1つの形です。

 

もし収入の心配がなければ、僕もそういう形でなら塾業界に戻りたいとさえ思います。

 

最後に

少子化の影響でますます混とんとしている塾業界。

ひとくちに塾といっても業態も様々ですし、大手だけが勝ち残る業界ではなくなりました。

1人のカリスマ講師の存在がエリアの塾勢力図を左右するとまで言われています。

 

「あの教室の先生がすごい!」という口コミと「あの塾に通い始めて成績が上がった!」という実績が合わされば最強です。

 

さらに営業力と泥臭い囲い込みにも心折れることなく取り組める精神があるなら、正社員として勤めるのも全然ありです。

むしろそれがあるなら、是非チャレンジしてほしいし、自分の支店をもって自分の力で会社を大きくする経験ができる業種は多くはありません。

成功も失敗もすべて自分の責任。

そこにやり甲斐を求められる仕事です。

 

 

 

ここまで読んでくださってありがとうございました。

塾業界ってこんなところっていうのが、少しでも伝わってくれればと思います。